大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和55年(う)277号 判決

本件公訴事実によると「被告人両名は共謀のうえ、被告人坂井の勧誘により生命保険に加入していた相浦真正が交通事故により死亡したことを知るや、右坂井が右真正のために三か月分の保険料を代納していたことを奇貨として、同保険金の受取人である同人の父相浦武舟からその半額を騙取しようと企て(中略)保険外務員が右相浦真正に代つて保険料を納付していても保険金の半額を取得する権利がないのにあるように装い、被告人江副において、私は三井生命福岡営業所の山下という者です。外務員が立て替え払いしていた場合、保険金は受取人である遺族とその外務員とで折半する慣例になつています旨、同坂井において、私が立て替え払いした酒井です旨こもごも申し向け、相浦武舟をして被告人酒井に保険金の半額を取得する権利があるものと誤信させ(中略)、金一、四三二万四〇八〇円の払い戻しを受けてこれを騙取したものである。」と云うのに対し、原判決は訴因変更の手続を経ないで、欺罔手段については原判示のとおり、公訴事実とほぼ同一の事実を認定しながら、相浦武舟の錯誤の内容につき「被告人坂井に保険金の半額を謝礼として交付し、同人らの指図のままにしなければ、保険契約が無効とされるかもしれず、そうなれば保険金が受領できなくなるかもしれないと武舟を誤信させ、」と認定している。このように、原判決認定の錯誤の内容が、公訴事実の主張する錯誤の範疇を超え異なる場合、訴因変更の手続をとらず、いきなり右の如く公訴事実と異なる内容の錯誤を認定することは、よしんば被告人らが無罪の主張をしていたとしても、被告人らに不意打の打撃を与え、その防禦に実質的な不利益を及ぼす虞があると云わなければならない。

しかして、記録中には相浦武舟が公訴事実記載の如く錯誤したことを証する有力な証拠がある反面、その証拠価値の評価はおくとして、同人の錯誤が或は原判示類似の如き内容のものではなかつたかとも疑われる証跡が皆無とも云い難く、たやすく看過できず、被告人らの罪責を問う為にはこの点について更に審理を尽す必要があり、その結果如何によつては欺罔行為と錯誤との関係に重大なる影響を及ばすことが考えられる。

そうであれば、原審が訴因変更の手続を経ないで、右錯誤の内容を叙上のように認定したのは訴訟手続の法令に違背し、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであると云わざるを得ない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!